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春の数えかた

日高敏隆/著
新潮社
本書は生きものや自然について、動物行動学者ならではの視点でつづられたエッセイ。
もし著者とわたしが一緒に林を歩いたとしたら、見ているものがこうもちがうのかとびっくりするだろう。わたしが見過ごしている風景の中に、実にたくさんの生きものたちの営みを見ている。きれいな花の群生に花たちの生き残りをかけた熾烈な争いを見、虫たちの鳴き声に必死に雌を呼ぶ叫びを聞いている。
本書では、「自然にやさしく」、「自然との調和」など、人間にとって都合のよい自然観の欺瞞も指摘している。自然は闘争と競争の場である。調和を乱すなといっても調和はもともとそこにはない。こういう自然と人間との共生の手段として、著者は「人里」を提案する。人間の生活の場は人間のロジックに従い、そこから離れるに連れて自然のロジックへとまかせるという考えだ。これは相手の立場でものを考えるという人間同士のやり方にも通じるもので、もっと取り上げられてもいい考えだと思う。またスリッパやシャワーについてふれたユーモラスな論考もあり、人間も自然界の生きものの一種として観察されている。
自分がもちえない目で世界をみることができるのは、読書の楽しみの一つである。本書はその楽しみを満喫させてくれるだろう。カバーの装画や本文中の画もとても素敵なので、ぜひ手にとって見て欲しい。ちなみにカバーをはいで表紙の画も見て下さい。(文:京)