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寝ながら学べる構造主義

内田樹/著
文藝春秋
(文春新書)
書名が不正確である。「寝ころんで読んでもわかる構造主義」と言うことだろう。しかし、言葉尻をとらえて文句を言っては申しわけない。寝ころんで読んで構造主義がかなりわかった気にさせてくれる本、なのだから。
本書は構造主義入門書であるとともに、現代ヨーロッパ思想史でもある。そう言うには余りに断片的な書き方ではあるが、エッセンスはちゃんと示している。
とても入りやすい構成で、まず前史にマルクス、フロイト、ニーチェが、ついで始祖としてソシュールが出て来、最後に構造主義の四銃士としてフーコー、バルト、レヴィ=ストロース、ラカンが紹介される。
著者の内田さんは「入門者のための」解説書をよく読むという。なぜなら、この種の入門書にすぐれた入門書が多いからだそうだ。「入門者のための書き物」が「知らないこと」を軸に編成されているのに対して、専門家のための書き物は「知っていること」を積み上げていく、と著者は言う。著者の言葉を引用すると、
「良い入門書は『私たちが知らないこと』から出発して、『専門家が言いそうもないこと』を拾い集めながら進むという不思議な行程をたどります。(この定義を逆にすれば『ろくでもない入門書』というものがどんなものかもわかりますね。『素人が誰でも知っていること』から出発して『専門家なら誰でも言いそうなこと』を平たくリライトして、終わりという代物です。
こんなことを言われたらがぜんこの本を読んでみたくなる。期待にたがわぬ面白さで読み進んだが、前史と始祖の話はもう少しくわしくかいてほしかった。いよいよ四銃士の部分に入ると、これまたエッセンスをずばりとりだしてわからせてくれるが、もちろんよくわからぬ所もある。にもかかわらず四銃士の著作を、読んでみたいという強い気持ちにさせられる。本書の目的はまさに達せられたわけで、本書は、著者の持論を裏書きし、編集者の意図に合致した「よい入門書」として完成したわけである。(文:宮)