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英語達人列伝 あっぱれ、日本人の英語

斎藤兆史/著
中央公論新社
(中公新書)
英語達人列伝など新聞の書評でなかみを知ることがなければ読む気にならなかっただろう。しかし、書評に誘われて読んで、たしかに期待を裏切られることはなかった。

英語の見事な使い手として十人の日本人を取り上げてその英語学習法と生涯を描いている。著者の斎藤さんによるとこれらの達人達の英語学習法が日本の英語教育において研究されたことはない。
「どういうわけか、今までの日本の英語教育は失敗から学ぼうとする傾向が強かった。文学の英語は役に立たないから時事英語をやろう、文法や訳読では駄目だったから今度はコミュニケーションだ、という錯誤ばかりを繰り返してきたのである。そしてその際に導入されるのは、多くの場合、日本の風土や言語文化を理解しない英米の学者が開発した学習法や評価法であった。」
著者の斎藤さんは英語学習について明快な考えがあり、そこから十人を見ているから、この本の中で十人は偉大な業績を持ち上げられる偉人ではない。各人それぞれの英語との関わりが描き分けられている。

達人ぶりを示すエピソードをひとつ。岡倉天心が横山大観らとボストンの町をあるいているとき、若者に声をかけられた。What sort of 'nese are you people? Are you Chinese, or Japanese, or Javanese? この東洋に対する偏見に満ちた台詞に対して天心は次のように答えた。We are Japanese gentlemen. But what kind of 'key are you ? Are you a Yankee, or a donkey, or monkey?
こんなエピソードばかりではなく、この本は調べの行き届いた楽しくて有益な読み物である。取り上げられている十人は、新渡戸稲造、岡倉天心、斎藤秀三郎、鈴木大拙、幣原喜重郎、野口英世、斎藤博、岩崎民平、西脇順三郎、白洲次郎。(文:宮)