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戊辰物語

東京日日新聞社会部/編
岩波書店
(岩波文庫)
この本は明治維新から60年たった昭和3年に万里閣書房から出版された聞書きの岩波文庫版である。第二次世界大戦が終わって間もなく60年になるが、人間同じようなことを考えたもので、昭和初期に、幕末維新の生き残りの人たちから生の話を聞く最後の機会とみて、こういう新聞読み物が企画され、本になった。
当時同新聞記者だった子母沢寛もこの企画読み物を書いているから当然のことながら「新撰組始末記」と同じような話が出てくる。本書の内容は、ひとことであえて言えば、負けた側からみた幕末維新期の民心の動向、時代の気分をいろんな人(比較的有名人が多い。たとえば高村光雲、尾佐竹猛、山岡松子、柳屋小さん、金子堅太郎)からの聞書きでまとめたものである。目次から2,3順不同でひろうと「枯れ行く葵にお江戸の不安」「ハイカラ好みの将軍様へ反感」「朱鞘に足駄いきな彰義隊」など。
あくまで新聞の読み物だから興味本位に書かれているが、これは欠点どころか長所だと、解説の佐藤忠男は言う。興味本位に行ったゆえに、世間の噂や、庶民の貴重な証言を引き出すことができた。理屈はともかくとして、まず読み物として面白く、読み終わってみると、まじめをきどった歴史書が無視してきたことや、つかむことができなかったことがわかるのだからすばらしい。文庫版は20年前に出ているが、佐藤忠男の解説も本文と同じぐらい面白くてためになる。(文:宮)