「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

警視庁草紙(上)
警視庁草紙(上)表紙
警視庁草紙(上・下)

山田風太郎/著

河出書房新社
(河出文庫)

 明治になって、年数が一桁の時代、第二次世界大戦後の昭和20年代と同様、世の中がガラリと変わり、・・・といっても、どちらに向って動き出したのかまだわからない、そんな混乱した時代をバックに奇想天外の事件が起きる。登場するのが、薩摩出身の川路利良大警視とその配下の警察官たち。といっても前歴は新選組の隊士だったり、会津藩士だったりする。これら警視庁組に対して、事件に絡んでくるのが、元南町奉行の駒井相模守、元同心の千羽兵四郎・・・。さらに子供時の漱石、鴎外、露伴を始め実在の人物と架空の人物が、チラリと姿を見せ、また舞台狭しと暴れ回る。
 維新後数年しか経っていないから、チョンマゲを結った人あり、両刀を腰に差していたり、かと思うと立派な制服に身をつつんでいる。その風俗たるや、まことに錦絵を見るような目ざましい色あざやかさである。しかし、話は抑制のきいた文章で進められるから、知らぬ間に、その世界に引きこまれておしまいまで読み続ける破目になる。
 幕末維新の歴史を多少知っていると、名の知られた政治家や商人、大がかりな疑獄事件などが関係していて、その話のからめ方のうまさには思わず「さもありなん」と納得してしまう。
 金にきたない元老井上馨が準主役級で出てくるし、斬首された江藤新平や、もちろん西郷隆盛、大久保利通は出てこないわけがない。とにかく幕末維新のいろいろな事件の関係者を次々に登場させながら、作りのもめいていなくて、新旧ないまぜになった面白い世界がくり広げられる。(文:宮)