「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

不当逮捕 不当逮捕


本田靖春/著

岩波書店
(岩波現代文庫)

 本田靖春が亡くなったあといくつかの追悼記事を読み、本田靖春という人が気になって、とりあえず文庫で読めるこの本が何をテーマにしたものか全く知られずに読み始めた。
 昭和三十年代初期の売春汚職にからんで、スクープをものにした立松和博が名誉毀損で逮捕され、あげくに懲戒休職となり失意のうちに死に至るまでを描いている。
 一人の敏腕社会部記者の生涯を描きながら、企業組織としての新聞社の体質を批判し、戦前以来の検察当局の人事抗争(派閥内の対立)の長いプロセスとからませて、波にのみここまれていく悲劇を作品にしている。かさかさしたノンフィクションではなくて、温かい血が通っている人間たちの交流と挫折、死を描いた一篇の文学作品というのが読後の感想である。
 いつの時代にも、人間世界には喜怒哀楽を伴った人生がある。どんな極限状態におかれても、そこに人が生きていれば、人と人が織りなす関係があり、ひとつの世界が作りあげられる。それを描いた作品である。
(文:宮)