「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

清張さんと司馬さん 清張さんと司馬さん

半藤一利/著

文藝春秋
(文春文庫)

 「清張さんと司馬さん」と、一方は名前で、もう一方は姓で呼んでいるが、これは長いつきあいの中で親しくなり、呼びやすい形ということで、自然におちついたらしい。
 担当編集者として、丁度働きざかりのときに、戦後を代表する2大作家とつきあうことになり、その辿ってきたあとを手際よくまとめた本である。当然のことながら面白いエピソードはいろいろある。また、もともとテレビで放送されたテキストに加筆してまとめられたもので読みやすい。読みやすさと、読後感の強さ、深さは矛盾しない。小説に限らず作品を書くときの姿勢、つまりは文筆の徒としての基本的態度において、対照的な2人の大作家の姿を、鮮明に描き出しているのが、この本の最大の特長である。
 高いところから鳥瞰することを特色とする司馬さんに対して、地べたを這うのが清張さんである。これまで無名であったとしても人に抜きん出た人物をとりあげて、その人生を、魅力的に描き出す司馬さんに対して、時代に押し流され、もがいている名もなき庶民の生活を描くのが清張さんである。
 描き方、視点はきわめて対照的であったにもかかわらず、昭和史に対する関心の強さでは共通していた。しかし、清張さんは昭和史にかかわる膨大な作品群を生み出したのに対して、司馬さんはついに昭和史を書くことはなかった。史料を大量に集め、インタビューをつみかさね、準備は充分に進んでいた。そして、著者半藤さんの幾度かの強いすすめにもかかわらず、執筆することに「ウン」とは言わなかった。
 これらのことは、すでに知られていることかもしれないが、司馬さんと清張さんと2人を並べて論ずることにより、はっきりと2大作家の特色が示され、ふたたび作品を読んでみたいという気持ちにさせられる。
本書の目次は次の通りである。
一 二人の文豪と私
二 社会派推理小説の先駆者として
三 古代史家としての清張さん
四 時代小説から歴史小説へ
五 『坂の上の雲』から文明論へ
六 巨匠が対立したとき
七 司馬さんと昭和史
八 敗戦の日から観想
九 清張さんと昭和史
十 『日本の黒い霧』をめぐって
十一 司馬さんの漱石、清張さんの鴎外
十二 司馬さんと戦後五十年を語る

(文:宮)