「この本おもしろかったよ!」

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1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部員のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

分断される経済 分断される経済
バブルと不況が共存する時代

松原隆一郎/著

日本放送協会
(NHKブックス)

 いま眼前に展開されつつある諸問題、年金や、教育システムや、都市再生や、郵政民営化について、小泉内閣の構造改革といわれる政策と関連づけて、著者の価値観が前提にあるが、ごまかしのない平明な文章で、納得できる説明をしてくれる本である。
 ひとつ例をあげると、BSE問題について、安全と安心が一致しないことが重要な論点としてあり、その根底に信頼されない専門家の問題を指摘している。ここだけでも一読に値する。牛自身の肉骨粉を牛に食べさせるなどという不自然な牛肉製造法を考えた専門家(の技術革新)や、ヨーロッパの警告を無視して、肉骨粉の輸入を禁止してこなかった農水省官僚などを、国民は、まず信頼することができない。
 松原さんの本をNHKブックスで読むのは2度目だが、時事的な問題に対して、理論的な基盤に立って(それは社会経済学で、本書末尾に説明が出てくる)、体系的に解説している。
 眼前の政治経済問題、あるいは政策に対してはそれをどのようにとらえ、理解するか、いろいろな立場があり、意見の表明があり、本が書かれている。
 そのすべてを知っているわけでも、読んでいるわけでもないが、新聞雑誌の文章や、本について信頼して読めるものと、そういう気持になれないものがあるのは事実である。
 ある本が、読み手のおかれた立場によって有益であったりなかったりするにしても、読んで納得するのは、自分の持っている知識(とその構成物)に合致するか、いろいろな出来事に対する感覚を理論的に説明されたと思える場合である。
 もちろん自分の知識と感覚に衝突する内容であるにもかかわらず、自分の無知や思いちがいに気づかされて、軌道修正して納得することもあるわけだが、その場合でも、読んだものがごまかしなく、理解可能な文章でなければならない。そんなわけで、松原さんを、私は信頼するに足る書き手、学者だと考えている。(文:宮)