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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

イスラーム文化 −その根底にあるもの−


井筒俊彦/著

岩波書店


30年前に講演会で話した記録をもとにして刊行された本の岩波文庫版。第二次大戦後ずっと、中東は世界中が注目せざるをえない紛争が絶え間なく続いてきた地域である。現在もチュニジア、エジプト、リビア、イエメンと長期政権に反対する「民主化革命」が進行中だ。そして中東といえばイスラム教の世界である。井筒さんの本は、イスラム教がどんな宗教であるか、イスラム文化とはどういうものかを平易な言葉で説明してくれる。本書は文庫本230ページの小さな本だが、用語解説やコンパクトな入門書というものではない。しかし通読後、明らかに目が開かれたと感じる本である。
たとえば『コーラン』が商人の感覚で書かれていることを実例を示してわからせてくれるので、『コーラン』をもっと読んでみたくなります。
ちなみにムハンマド(マホメット)は商人の生まれ。またキリスト教が「神のものは神へ、カエサルのものはカエサルへ」と聖俗二分の立場をはっきり持っているのに対して、イスラム教では、個人的、社会的、民族的、国家的、およそ人間がかかわるあらゆる局面に宗教が貫徹していることを教えてくれる。この事がイスラム世界の近代化の障害になっているし、ホメイニ師が指導したイラン革命のとき以来のイスラム教と政治の不可分の関わりを説明している。また、キリスト教と兄弟の関係にある宗教であるにもかかわらず、イスラム教には「原罪」という概念はないという。シーア派とスンニ派の違いもイラン民族の特性にからめてよくわかる。
こんな調子で、イスラム教とイスラム教徒との関係を、またイスラム教の重要な教義のいくつかの側面を格別予備知識のない読者にしっかり分からせてくれる。本書はT宗教、U法と倫理、V内面への道の3章からなり、講演記録という正確を残しているためにとても読みやすい。3章のタイトルの取っ付きにくさに惑わされて敬遠したら、もったいない本である。(文:宮)