アーカイブス
「この本おもしろかったよ!」
1ヶ月に約1冊のペースで朔北社出版部の3人がお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という、ひそかな野望がつまっているコーナー。

【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。

独裁体制から民主主義へ 
−権力に対抗するための教科書−



ジーン・シャープ/著
瀧口 範子/訳

筑摩書房


大きな社会変革としての明治維新は、例外的に人的犠牲(死者)が少なかったと言われている。西南戦争まで含めても明治維新の変革で命を失った人は数万人で、フランス革命と比べれば2桁少ないし、ロシア革命や中国革命と比べれば3桁のちがいがあると言われている。革命は社会変革の最たるものであるが、社会の不公正を無くし人々の生活を改善するのにどれほど有効であっても、なにしろ犠牲が多すぎる。しかし、同じロシアの変革でも1991年のソ連崩壊では人的犠牲者はきわめて少なかっし、東欧でおきた共産党の独裁体制からの脱却・変革も人的被害は小さかった。それでは「中東の春」といわれたチュニジアやエジプトの独裁体制崩壊ではどうなるか、まだ進行中の変革なのでわからないが、内戦が勃発すれば状況は一変するにちがいない。とにかく現実には世界の各地域にいまなお独裁体制はけっこう残っており、これをうち破るための運動も続けられている。
そして、近年世界中で起きている体制変革の動きの背後に、ジーン・シャープの著作があるらしい。少なくとも独裁体制を倒そうという運動に加わっている人々によく読まれているらしい。シャープ理論の眼目のひとつは、独裁体制を倒すために非暴力で立ち向かうということだ。暴力を使うのは、独裁体制がもっとも得意とする領域で闘うことになるので、勝ち目はほとんど無いし、第一犠牲が大きすぎる、とシャープは主張して、非暴力で独裁体制に立ち向かう、たくさんの方法を紹介し、その有効性を説いているのである。目から鱗のおちる心地がするが、どこまで有効な闘い方なのかという疑問が無いわけではないが、長年マルクス主義の暴力革命論にいわば毒されてきた頭脳に、シャープの理論は新鮮な視野を開いてくれるのは間違いない。非暴力的運動で、独裁体制が倒せればこんな結構なことはない。著者のシャープは1983年に自ら設立したアルバート・アインシュタイン研究所に拠って、現在も、独裁体制からの脱出を目指す世界中の運動家に、非暴力による闘い方を教え、応援している。(文:宮)