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「この本おもしろかったよ!」
1ケ月に約2冊のペースで朔北社の社長である宮本と出版部の計5人のお気に入りの本を紹介。本のジャンルは様々なので「本を買う時の参考にしてくれればいいな。」という4人のひそかな野望がつまっているコーナーです。

ゴルバチョフに会いに行く

亀山郁夫/著


集英社 2016

 「まえがき」から読み始めて、たちまち著者の異様な情熱に驚かされた。亀山さんは学者として努めて冷静、理性的に対したいという気持ちで立ち向かっているのだが、文章の端々から情熱がほとばしっている。

東西冷戦時代のソ連を、政治的には民主化し経済的には停滞から抜け出すために、ペレストロイカとグラスノスチを推し進めたゴルバチョフに対する讃仰の念が一貫して貫かれているが、そのゴルバチョフがソ連という国家を解体する役割を果たしたこと、その際の不可解な行動の原因を突き止めたいという強い願望が本書執筆の動機だが、当初の期待通りの取材ができなくて、現にある形にまとめられたのである。著者のロシア文学、ロシア革命、そしてペレストロイカに対する尋常でない熱い思いが伝わってくる本だ。

ゴルバチョフはペレストロイカの実行によって、ソ連邦を構成する自治共和国の自律性を認めることになり、ソ連邦大統領としての自己の立場の脆弱性が表面化して、ロシア共和国大統領エリツィンに主役の座を明け渡す結果になった。それはまもなくソ連邦の解体を導き出すのである。しかし、当時ソ連邦解体ではない別の道もありえたのではないかという疑問を著者の亀山さんは抱き、ゴルバチョフ大統領の思想と行動に強く注目してきたのである。このような関心から本書本刊行を企画し刊行にこぎつけたのが2016年であるが、ロシアのウクライナ侵攻が行われている今日、ロシアとウクライナの関係を考えるとき、問題の根幹にペレストロイカによるソ連邦解体があることが繰り返し指摘されている。亀山さんは2016年に、両国の関係を考える際の大事な要素を指摘しており、今日のロシアとウクライナの関係を予言するかのように熱く語っている。著者のこの問題にたいする熱い思いが胸に迫ってくる。

著者は、本書のためにゴルバチョフに会いにロシアまで出かけたが、結果として真に確認すべき事柄についてゴルバチョフに質問を投げかけることができなかった。代わりに関係文献を博捜して、本書を書き上げた。重要な問題を指摘し、真相に肉薄していることを読み取ることができる。ソ連邦解体と社会主義経済から資本制経済への転換という巨大な変化を引き起こしたゴルバチョフに向けられた強烈な関心が本書全体を貫いている。(文:宮)

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